生活記録

日々のこと(旧はてなの茶碗)

讀書つれづれ

大庭萱朗編『田中小実昌エッセイコレクション2旅』(ISBN:448003742x)讀了。角田光代さんの解説が良かつた。これ程的確に小実昌さんの魅力を記した文章は讀んだことがなかつた。さはりを引用してみる。

知らないものはこわい。知らない場所へいくのりものはこわい。私たちはなんだって知っていたい。知っている場所とものを安心して見ていたい。しかし、知る、知らない、理解する、理解できない、ということの根本に、著者はつねにこだわっていたひとではないか。

知っているふりなどしない。わかったふりなどしない。意味から再構成された事実をうのみにしない、というのは、すべてにおいてこの著者の基本的姿勢で、そのなかに、目的のあるふりなんかしない、というのも含まれる。それで、知っているふりをし、わかったふりをし、いつもいつも目的があるふりをして、もしくは、目的があると思いこんで暮らしている私たちは、どきりとするのだ。

(中略)

知っているふりをけっしてしない著者は、全世界をまるごと庭のようにうろついて、なんでもかんでも、きちんと驚く。山があり、バス停があり、老人がいて子どもがいて、路地裏があって町がある。そのすべてにずっと驚いている。(略)山が山であり、町が町である、世界が世界としてそこにあるという単純な新発見、何ものにもとらわれることないスケッチは、私たちをも解き放つのだ。常識や、知識や、見栄や恐怖や退屈や知ったかぶりから。