上野の国立博物館にて。流石に込んでゐる。伊藤若冲だけの展示ではなくて、江戸時代の樣々な(圓山派、狩野派や琳派の)日本畫が萬遍なく置かれてゐた。
渡辺始興の鯉圖や河鍋暁斎の達磨がよかつた*1。
豫備知識なしに見た伊藤若冲は、慥かに私の目にも斬新に見えた。花鳥人物圖屏風や鶴圖屏風での墨ベタの線の勢ひに驚かされる。
鳥獸花木圖屏風は、桝目描きと云ふ技法で描かれてゐる。こんな畫は今迄お目に掛かつた事がない。凄いインパクトだ。たゞ人集りが絶えず碌に繪がみられなかつた。
こゝのプライスコレクションの展示一番感心したのは、「光と絵画の表情」と云ふ特別展示だつた。普通絵画の展示照明には「限りなくフラット」であること
が求められる。しかしこゝでは、舞台に使われるような照明装置を使い、「自然光のように変化し、作品に表情を与える陰影ある光」を実現
すると云ふ。
例へば金屏風を見てゐると、照明が暗くなるに從つて屏風自體が淡く光を發するかのやうに鈍く輝き出す。光を當てたのでは決して出てこない、金そのものの美しい色合ひのやうだつた。この時頭を過つたのは谷崎の陰翳禮讚の文章だつた。この事を云つてゐたのか。屏風は幾つか目にしてゐたけれど、これ迄一體何を見てきたのだらう。
葛蛇玉の雪中松に兎・梅に鴉圖では、まるで夕泥みから、滿天の星が浮かび上がるかのやうな幻想的な光景を目にした。
*1:思はず壁紙にして了つた。