屋名池誠『横書き登場』(岩波新書)讀了。非常に勉強になつた。
日本語の横書きに関しては、さまざまな「常識」「通説」が存在している。いわく、
- 右横書きは古来のもの
- 右横書きはとは、1行1字の縦書きにすぎない
- 左横書きは戦後のもの
- 左横書き化は国の政策としておこなわれた
これらはいずれも正確なものではない。
漢字や假名遣ひの表記と書字方向とを分けて考へられず、横書きで正統表記を書くのは、をかしいと云ふ難癖をつける輩や、傳統と稱して妙に縦書きに固執するなどの類ひを、眼の邊にしてうんざりしてゐた。この『横書き登場』を讀んで、私のもつてゐた疑問や、あやふやだつたところがかなり整理出來た。
たゞ茲で強調したいのは、日本語は縱書きでも横書きでも書くことの出來る、稀有な言葉であることに、もつと刮目しなくてはいけない。そして、このことに驚く事が出來る人は非常に少ない*1。
だから、縦書き然もなくば横書きと云ふやうな、どちらかの否定としてではなく、平面利用の多様性は近代の日本語が得た貴重な財産
として、その僥倖を十二分に生かしてゆきたい。